人間ドックについて

検査について(その1)

人間ドックについての質問集

はじめに

このコーナーは、読者、勤務先の受診者などからの人間ドックについてのQ&Aのうち、人間ドックで行っている検査についての最初のものです。

質問リスト

  1. 健康診断で胸のX線写真を1ヶ月前に撮ったばかりです。また人間ドックで撮っても大丈夫なのでしょうか。(1997/9/15) →問1の答え
  2. 人間ドックで血液検査をすると、いつも白血球数が3000くらいしかないと言われ、その度に再検査となってしまいます。しかし、再検査ではいつも4000以上で、異常無しと言われます。ドックの検査がおかしいのではないでしょうか。(1997/9/26) →問2の答え
  3. 病院によりオプション制をしいてあるところもありますが、どのような根拠で選ぶのでしょうか? 本来、受診者は素人であり、医師の指導?もしくは受診結果により判断すべき物ではないでしょうか? (1998/6/9) →問3の答え
  4. 食事は全く肉をとらず、菜食主義に近いのにコレステロールが280もあります。本当にコレステロール値は食事と関係があるのでしょうか。両親も兄弟も、みんなコレステロールが高いので、むしろ遺伝の方が大きいのではないでしょうか? (1998/8/21) →問4の答え
  5. 血縁者に大腸癌が多く、癌遺伝子を受け継いでいるかどうか不安です。癌遺伝子の検査を人間ドックでは出来ないでしょうか? (1998/9/20) →問5の答え
  6. 胆嚢結石と十二指腸潰瘍が疑われ、両方とも精密検査になりました。忙しいので二日間も休みが取れません。胃カメラをやったあとで腹部CTは一緒に受けられないのですか? (1998/11/29) →問6の答え
  7. 便潜血検査はどんなものなのでしょうか? 人間ドックでは必ずするものなのですか? 私は便秘がひどいのですが検査する時に何か問題あるでしょうか? (1999/1/15) →問7の答え
  8. 総コレステロールの値が会社の健康診断で入社していらい5年間、基準値を少し下回る110くらいなんですが、コレステロールの低い値によってどのような症状になるのか、どうしたら改善できるのか教えて下さい。(1999/1/24) →問8の答え
  9. 体調に不安があり(動悸、不安感など)人間ドックを受けよかどうか迷っています。今年は、子供がほしいと思っているので多量の放射線をあびたあと、妊娠してもお腹の中の子供には、影響ないのでしょうか。(1999/3/22) →問9の答え
  10. 夫は15年間毎日20本以上煙草を吸いつづけています。それなのに、胸部X線写真で異常なしと言われ続けているのが不思議です。煙草では胸部X線写真には変化が出ないのでしょうか。また、胸部X線写真に変化が出なければ大丈夫なのでしょうか。(1999/4/7) →問10の答え

Q&A

1番目の質問

問い

健康診断で胸のX線写真を1ヶ月前に撮ったばかりです。また人間ドックで撮っても大丈夫なのでしょうか。

答え

問題はないはずです。胸部X線写真の被爆量はわずかで、年間に自然界で浴びる宇宙線の方が100倍以上多いはずです。ですが、妊娠初期の胎児が放射線を浴びるのは感心しません。妊娠可能な女性の場合、急がないX線検査は、月経開始後10日以内に受けた方が良いでしょう。

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2番目の質問

問い

人間ドックで血液検査をすると、いつも白血球数が3000くらいしかないと言われ、その度に再検査となってしまいます。しかし、再検査ではいつも4000以上で、異常無しと言われます。ドックの検査がおかしいのではないでしょうか。

答え

この質問も筆者の施設で多く受けるものの一つです。これに答える前に、白血球の数は時刻により違うと言うことをまず知ってください。通常、午前中に低く、午後に高いのです。また、朝飯を食べずに測ると、低く出ます。短期ドックの場合、血液は午前中に絶食の状態で取りますから、一番白血球数が低く出る条件での採血です。

それでは、なぜ食後に採らないのでしょうか。朝食を食べてきてしまいますと、人間ドックで重要度の高い、脂質(中性脂肪やコレステロールなど)や血糖の検査が出来なくなってしまいます。あちら立てればこちら立たず。やり直しが利かず、より重要な検査の方に条件を合わせているのだと考えてください。

もし、白血球の数が少ないので再検査とドックで言われ、薬の副作用、ウイルス感染、放射線取り扱いなどの思い当たる原因がない場合、朝食を7時30分ごろまでにちゃんと摂って、午前11時頃採血して再検査してもらってください。それで数値が正常の場合、ほとんどは心配要らないでしょう。

もちろん、抗生物質、抗がん剤やその他薬剤の副作用、ウイルス感染(風邪など)、血液疾患などの場合もありますから、再検査を指示された場合、その度に受けた方が良いでしょう。

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3番目の質問

問い

病院によりオプション制をしいてあるところもありますが、どのような根拠で選ぶのでしょうか? 本来、受診者は素人であり、医師の指導?もしくは受診結果により判断すべき物ではないでしょうか?

答え

総合ドックの場合、健康保険組合や病院会との関係で、必須検査項目だけでもコスト的に厳しいところが多く、特定の検査の要望はオプションとして追加料金を取って対応しているのが現実です。

確かに選ぶのに困ることもあるでしょうが、その場合は、一度オプション無しの標準的な総合ドックをお受けになり、御相談いただいたり、結果を見たりして判断されると良いかと思います。その場合、面接時間を多く取ってくれるところや、随時医師が相談に乗れるところが良いでしょう。

基本的には、初めから特定のニーズがある人に対応するための特殊ドックがオプション検査の主流だと思います。(脳ドック、骨ドック、痴呆症ドックなど。)

本当は、症状や悩みが具体的にあるのでしたら、ドックではなく、臨床医を受診すべきとは思います。ただ、3分間診療の現実では難しいこともあり、このような特殊ドックが繁盛する一因となっているのでしょう。

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4番目の質問

問い

食事は全く肉をとらず、菜食主義に近いのに総コレステロールが280もあります。本当にコレステロール値は食事と関係があるのでしょうか。両親も兄弟も、みんなコレステロールが高いので、むしろ遺伝の方が大きいのではないでしょうか?

答え

この質問も筆者の施設で多く受けるものの一つです。

コレステロールに限らず、ある代謝産物の数値が高い場合、次のように系統立てて考えると良いと思います。

  1. 原料の供給が多い場合(食べ過ぎ)
  2. 生産が活発な場合(作り過ぎ)
  3. 利用・排泄・分解が遅い場合(溜まってしまう)

コレステロールの場合に則して考えると、

  1. 動物性脂肪の取り過ぎ、卵の食べ過ぎなど
  2. 遺伝子の指令による場合(遺伝性)、ネフローゼ症候群(低い蛋白を補うため、肝臓で活発に蛋白を合成するついでに上がる)など
  3. 甲状腺機能低下症(代謝回転が落ちる)、運動不足など

しかし、実際には、複数の原因が複合していることが多いのです。食事はコレステロールの値を決める大変重要な因子ですが、それが全てではありません。

ご質問の方の場合、遺伝的な要素が大きい可能性がありますが、年齢、コレステロール上昇の程度、家系的な状況など具体的なことがわかりませんので、断定的なことは言えません。ですが、もし遺伝性のものであった場合には、たいへん努力してもある程度までしかコレステロールが下がらない可能性があります。しかし、逆に言えば、こういう人がいいかげんな食事をした場合の影響は他の人よりも大きいとも言えます。

最後に強調したいのは、食事の影響は確かにあると言うことです。極端な例ですが、筆者の施設で、ある年、ある会社の8人中7人までがコレステロールが前年より100以上上昇し、次の年には全員元に戻ったことがあります。監督官庁の役人が来て検査していたので、担当者が缶詰めになり、仕出し弁当ばかり支給されていたのが大きな原因だったようです。読者の皆さんも、コンビニ弁当に依存したりしてませんか?(人のこと言えなかったりする^_^;)

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5番目の質問

問い

血縁者に大腸癌が多く、癌遺伝子を受け継いでいるかどうか不安です。癌遺伝子の検査を人間ドックでは出来ないでしょうか?

答え

大腸癌については、発癌に関係する遺伝子はほぼ解明されており、技術的には十分可能です。ただ、遺伝学的検査を人間ドックで行うことの社会的問題(結婚などの際に差別的扱いをされないか、など)もクリアーされておらず、コスト的にもまだ高いので、採用には慎重にならざるを得ません。

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6番目の質問

問い

胆嚢結石と十二指腸潰瘍が疑われ、両方とも精密検査になりました。忙しいので二日間も休みが取れません。胃カメラをやったあとで腹部CTは一緒に受けられないのですか?

答え

胃カメラをやりますと、その際に送りこんだ空気が腸の中に残ります。その空気が検査を妨害しますので、腹部CTや腹部超音波断層検査(腹部エコー)は胃カメラの後にはできません。両方の検査を同じ日にしなければいけない場合、必ず胃カメラの方が後になります。ですが、胃カメラ自体、そんなに時刻を遅らせる訳にもいきませんので、時間的な設定は苦しくなります。その病院の検査の混み具合によっては、二つの検査を別の日にやらざるを得ないこともあると思います。

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7番目の質問

問い

便潜血検査はどんなものなのでしょうか? 人間ドックでは必ずするものなのですか? 私は便秘がひどいのですが検査する時に何か問題あるでしょうか?

答え

これは大便の中の微量の出血を検出するための検査です。出血するような病変であれば何にでも反応しますので、大腸癌、良性腫瘍、ポリープ、炎症、びらん(粘膜の傷)、潰瘍、痔核など、いろいろな病変で出てきます。従って、陽性に出た場合には確認のための検査を要するのが原則です。

注意点としては、下部消化管(大腸)の出血には敏感ですが、上部消化管(食道・胃・十二指腸)からの出血では大量に出血した場合にしか反応しないこと、また、反応が出ても大腸癌以外の場合が多い反面、たまたま出血していない大腸癌は見逃しかねないこと、従って、これで確実に見つかるのは癌が2cmくらいになってから、といわれていることです。それでも健康診断の中では有効性がありと評価されています。ですから、人間ドックでは必須の検査とされています。

便秘がひどい場合の問題点ですが、便が古いと反応が出にくいことと、便が固いと裂肛(いわゆる切れ痔)を生じてそれによる偽陽性を生じることでしょうか。

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8番目の質問

問い

総コレステロールの値が会社の健康診断で入社していらい5年間、基準値を少し下回る110くらいなんですが、コレステロールの低い値によってどのような症状になるのか、どうしたら改善できるのか教えて下さい。

答え

ウェブでは本人の状態が分かりませんので、どうしてもこの程度しかお答えできませんことをご承知おきください。

ご質問の件ですが、コレステロールの値が低い場合、

  1. もともとリポ蛋白自体に遺伝的な異常がある場合
  2. 何かの病気の影響でコレステロールが低い場合:甲状腺機能亢進症、重症な肝臓病(肝硬変等)、著しい貧血、消化吸収不良、その他の消耗性疾患など

に分けて考えます。

しかし、コレステロールが何かの病気の影響で110にまで下がるような状態なら、なにか症状が出ていても良さそうなものです。

ですから、特に他に病気や症状がなく、他の異常が指摘されておらず、元気で消耗したりしていないというのであれば、リポ蛋白それ自体の異常によって生じた(一次性といいます)ものの可能性が高く、そうであれば特別な注意は必要ないことがほとんどです。この場合、コレステロールが低いこと自体では何も障害は起こりませんし、数値を改善することはほぼ不可能ですし、やってもメリットがありませんので、そのままで良いでしょう。

厳格な菜食主義者でもコレステロールは低いですが、それでも140か150くらいと言ったところです。ですが、妙なダイエットはしない方が良いです。また、どんどん痩せてくる、下痢ばかりしている、異様に暑がる、動悸、息切れなど、異常な症状があるのでしたらそちらの方が問題です。この場合はコレステロールが下がったのはそれらの症状を生じた病気によるものかもしれません。低コレステロールはむしろその結果に過ぎず、二次的な問題になってしまいます。内科で診てもらってください。

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9番目の質問

問い

体調に不安があり(動悸、不安感など)人間ドックを受けよかどうか迷っています。今年は、子供がほしいと思っているので多量の放射線をあびたあと、妊娠してもお腹の中の子供には、影響ないのでしょうか。

答え

胎児死亡(すなわち流産)、奇形の発生、発育遅延、精神発達の遅滞については、放射線の量がある程度以上にならないと起こりません。そして、診断用の放射線では、たとえ下腹部を防護していなくても、この量に達することはありません。

小児がんの発生や、遺伝的変異といった影響については、エックス線による異常の可能性は0ではありませんが、それでも自然界の放射線に比べて確率的に低いですし、もしエックス線を浴びなくても出るかも知れないものです。

しかし、わずかな危険も避けたいと言う意味では、X線透視の被爆量は胸部X線に比べてかなり多いですから、胃の検査は内視鏡検査で別途お受けになるか、内視鏡検査が選択できるドックを受けるべきかと思います。

もしすでに妊娠していたのに気が付かないで検査を受けてしまった場合、それで中絶する必要はまずありません。

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10番目の質問

問い

夫は15年間毎日20本以上煙草を吸いつづけています。それなのに、胸部X線写真で異常なしと言われ続けているのが不思議です。煙草では胸部X線写真には変化が出ないのでしょうか。また、胸部X線写真に変化が出なければ大丈夫なのでしょうか。

答え

まず、胸部X線写真では、ある程度の大きさがないとその病変は写りません。従って、煙草の影響が写真に写るのは、肺癌が手術不可能な大きさに育ったあと、と言う事になり兼ねないわけです。実際、肺癌を見つける手段としては胸部X線写真はそれほど有用とは言えません。

また、長年大量に煙草を吸いつづけたまま亡くなった場合、煙草に関係ない死因の場合でも、解剖すればその人の気管支は真っ黒です。胸部X線写真に変化がなくともです。ですから、胸部X線写真に変化がなければいいというものではありません。

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