人間ドックについて

職場環境と検査値の変化

「How to 健康管理」2001年2月号より

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筆者の施設で実際にあったお話です。Aさんのコレステロール値は例年180前後だったのですが、ある年、突然280以上に上昇してしまいました。残業が増えて月200峙間を超えるようになったので食事が偏ったのかもしれない、とのことです。それにしても今回だけ100以上も上昇するとはなぜだろう、と不思議に思っていたのですが、その月は同じような受診者が7人も出てしまいました。

一時は検査機器の故障も疑われましたが、調べてみると全員同じ金融機関の受診者でした。何かが職場で起きているのでは、ということで尋ねてみますと、その金融機関ではその時期監督官庁の検査があり、担当者は1日2食も仕出し弁当を支給されて、午後11時まで支店のなかに開じ込められていたとのことです。

この例の場合は、脂っこい食事、早食い、ストレス、運動不足の影響が極端に凝縮された形で出たものと思われます。それにしても、職場環境がこんなに影響が大きいとは、と驚かされました。なお、この話には後日談があって、監督官庁の検査がない翌年は、その人たちのデータは全員元に戻っていました。

以上、健康診断のデータを個人としてのみでなく、職場単位のものとして見ることで、そこに隠されている背景が見えてくることがある、という話でした。このような見方は一般の受診者には無理ですが、企業や健保組合の担当者にはぜひ頭に置いていただきたいところです。健診機関でも、同業他社との比較などを資料として出しているところもあるようです。

(以上、「How to 健康管理」平成13年2月号初出、原文のまま)