人間ドックについて

上部消化管X線造影

「バリウム」と称されている検査

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上部消化管(食道・胃・十二指腸)の検査としては、X線造影検査と内視鏡検査が主力になっています。最近はペプシノーゲン法、ヘリコバクター・ピロリ抗体も行われるようになりましたが、これらの検査は少し意味合いが違いますので、また稿を改めて解説したいと思います。

通常「バリウム」と称されている検査は、正式には「上部消化管X線造影検査」と呼ばれます。上部消化管と言うのは、食道から十二指腸まで、つまり上の方の消化管、と言う意味です。ちなみに、下部消化管と言うのは直腸を含む大腸のことです。

バリウムを飲み、発泡剤(水に溶けると炭酸ガスを出す薬)で食道・胃・十二指腸を膨らませます。この状態でX線をフィルムに向かって当てますと、バリウム(実際には硫酸バリウム)はX線を通さないため白く写り3次元の対象物を2次元のフィルムに投影することができます。射影幾何学の世界を思い浮かべていただくと良いかもしれません。

実際には、胃をバリウムで満たしてそのまま立たせ重力でバリウムが下の方に溜まった状態で輪郭を見る立位充盈法、被検者に転がってもらうことで胃壁にバリウムを馴染ませてから邪魔なバリウムを胃袋の邪魔にならないところに寄せ、胃壁に薄くバリウムが張りついている状態で膨らんだ胃を撮るため半透明の胃袋が撮れて胃壁の微細な凹凸が表現される二重造影法などいろいろな撮影法がありますが、受診者の方々には細かくなりすぎるため撮影法の実際は割愛致します。

胃X線造影写真
図1 胃X線造影写真

図1は、二重造影法によって撮影された写真の一例です。縮小する過程で写真が劣化していて申し訳ないのですが、胃の粘膜ひだなどの凹凸が表現されています。

実は、この二重造影法は日本が誇る発明なのです。この撮影法が開発されてはじめて、胃の健康診断が可能になったといっても言い過ぎではありません。わずかに凹んだところには水溜りのようにバリウムが溜まるので、小さな潰瘍でも分かります。また、わずかな盛り上がりでもバリウムがはじかれ、小さなポリープでも分かるようになり、胃の健康診断に貢献してきました。

しかし、内視鏡検査と比べた場合には、弱点をさらしてしまうことがあり、今となってはベストの検査とは言えません。ある条件下では、余り役に立たないこともあるのです。実際、直接撮影で診断される早期胃癌は1年間で1,000人に2人~3人、内視鏡検査では1年間で1,000人に3人~4人とされていますから、たとえ直接撮影(大きなフィルムを使う)であっても、内視鏡検査の診断力には及びません。

また、検査に熟練が必要なのも特色です。また、良い写真を撮れる施設といいかげんな写真を撮る施設の差も大きいのが現状です。きれいに撮れる施設では内視鏡検査に近い診断率を上げています。内視鏡検査は口から(最近は鼻から入れるのもありますが)ファイバーを入れたりしますし、局所麻酔剤や(場合により)鎮静剤も使いますので侵襲度が大きく、気軽に出来る検査とはいえません。ですから、みんな内視鏡と言うのは現実的とは言えません。

一方、放射線を当てることから将来発癌の危険が増すのでは、という意見があります。こういうのを二次発癌と言いますが、被曝量から見て無視できると考えられます。また、胃癌はポピュラーな癌ですから見逃しの危険の方が二次発癌の恐れより重視されると思います。ただ、透視を伴いますので、胸の写真よりはかなり被曝が多いのも確かです。早期胃癌であれば、当初の変化はゆっくりですから、年2回以上受けても被曝量が増える割には利益は少ないと思います。

このように、上部消化管X線造影には多少の問題点はありますが、内視鏡検査より侵襲性が少ない利点から、やはり、当分は現役の検査法でありつづけるでしょう。ただ、全員に機械的にこの検査を行うので無く、ペプシノーゲン法やヘリコバクター・ピロリ抗体などで胃癌発生のリスクを評価してからX線か内視鏡かを選択するようになってくるという動きが出てきています。

追記(2014/06/14)

内視鏡検査と比べた場合の弱点は早期胃癌の発見率だけではありません。ヘリコバクター・ピロリ菌の感染とそれに伴う慢性胃炎が将来の発癌リスクを高くするため、ヘリコバクター感染胃炎による胃粘膜の変化を捉えてヘリコバクター・ピロリ菌の感染を疑い、菌を証明するための検査につなげることが重要になってきています。しかし、上部消化管X線造影でヘリコバクター感染胃炎による胃粘膜の変化を捉えるのは内視鏡検査と比べて難しく、そのような変化を読影して指摘できる人も多くはないのが実際です。ちなみに、慢性胃炎におけるヘリコバクター・ピロリ菌の検査の保険適用が内視鏡検査でヘリコバクター感染胃炎を疑った場合に限られるのもそのためです。

また、バリウムの通過障害を生じて腸閉塞を起こしたり、憩室炎や虫垂炎を引き起こすことが稀ながらあるのもこの検査の欠点です。特に腸閉塞の既往があったり腸管癒着が疑われる状況ではこの検査を行えないので、そのような方はご注意ください。