人間ドックについて

心電図について

少し詳しく知りたい方へ

本文

心電図は、心臓の活動に伴って発生する電位の時間的変化を記録したものです。最も一般的な場合、手足に4個所(うち1個所はアースです)、胸に6個所の電極をつけ、12通りの方向から記録します。その1例を図1に示しますが、これを標準12誘導といいます。

12誘導心電図
図1 12誘導心電図
第2誘導の拡大図
図2 第2誘導の拡大図

心臓は周期的に同じ動きを繰り返しますので、心電図にもある一定のパターンが周期的に現れます。12誘導のうちの一つを取り出し、拡大して示したものの1例を図2に示します。

尖った波形の前にある部分をP波といい、心房の活動を表しています。また、尖った波形の部分をQRS波といい、心室の活動を表しています。QRS波に続く小山のような波形をT波といい、収縮した心臓が元に戻る過程を表しています。

通常、縦方向は電位の1mVの変化が1cm、横方向は1秒間が25mmとなるように記録します。検査中に起こった変化をそのままリアルタイムで記録します。

少し難しい話となってしまいましたが、PQRSTといった記号の意味は忘れてしまっても差し支えありません。しかし、次のようなことだけは理解してください。

  • 心電図は心臓の周期的活動をリアルタイムに反映します。
  • 電気的な活動を一定の方向から観察していますので、位置と大きさの情報があります。
  • 電気的な活動に変化が出るものでないと、変化が反映されません。

逆にいえば、記録しているまさにその時起きている変化でないと分からない、ということです。したがって、人によっては、条件を変えると違った所見が現れることがあります。

そのため、心電図をとる条件によって、区別して扱います。このうち、人間ドックや日常診療で良くお目にかかるものは、

  • 安静時心電図
    • 健康診断で最も普通にとるのはこれです。
    • 安静臥床した条件で(寝て)とります。
  • 負荷心電図
    • 運動させて、心臓に負荷を与えた条件でとります。
    • 安静にした時に比べ、虚血(十分血液が流れていない状態)、不整脈などの変化が出現するかどうかをみます。
    • 心臓への負荷の与え方で、次のようなものがあります。
      • マスター負荷試験:階段昇降
      • トレッドミル:傾斜したベルトコンベアー
      • エルゴメーター:自転車に似た機械
  • 24時間心電図
    • カセットテープに24時間分の心電図を記録します。
    • ある一定の方向からの変化しか分かりませんが、長時間記録できますので、日常生活での状況が分かりやすい特徴があります。

以上が主なものですが、果たして、心電図で何を調べようとしているのでしょうか。あるいは、どんなことが心電図で分かるのでしょうか。

  • 心臓が動いているかどうか(生きているかどうか)……!
  • 心臓が規則的に動いているかどうか
  • 心臓のどの部分が全体の統制を取っているか(これを調律といいます)
  • 心臓の中できちんと電気が伝わっているか
  • 心臓の一部に血液の流れ(あるいは酸素)が不足している部分はないか
  • 心臓の筋肉が肥大しているか
  • 心臓の筋肉の一部が死んだりしていないか

これを病気の名前で表現すると、不整脈、伝導障害(ブロック)、心筋虚血、狭心症、心臓肥大、心筋梗塞といったことになります。

このように、心電図は色々なことが分かる有力な検査なのですが、弱点や落とし穴もある検査です。今まで何回も述べてきましたが、リアルタイムで記録する検査なので「その時起きている変化でないと分からない」こと、また「心臓のすべての変化が表現されるわけでない」ことに注意してください。

すなわち、心電図で異常が無かった場合でもたまたま調子が良かっただけかもしれませんし、安静時には出ない変化だったのかもしれません。あるいは、病変が小さすぎて心電図には反映され得ないのかもしれませんし、もともと心電図では分からない異常があるのかも知れません。

ですから、症状がある場合にはドックの心電図で異常が無いから大丈夫と思ってはいけません。こういう場合は直接病院や診療所で診てもらうべきです。

ドックで心電図をとるのは、あくまでも症状が無くて自分は大丈夫と思っている人に対し、そのままでは気づかない異常が出ていないかどうかを点検するためであり、他の検査同様、これですべて分かるわけではないことに注意してください。