人間ドックについて

不満・要望について(その2)

人間ドックについての質問集

はじめに

このコーナーは、読者、勤務先の受診者などからの人間ドックについてのQ&Aのうち、人間ドックについての不満・要望についての2番目のものです。

質問リスト

  1. 人間ドックでなくても、会社の健康診断でも大体のことは分かるようになっています。本当にこんなにいっぱいの検査が必要なのでしょうか。とくに、血液検査のMCV、MCH、MCHCは不要だと思います。(1999/8/15) →問1の答え
  2. 問診票をたっぷり書かされました。マークシートで書きにくい上、書いて申告したことと同じことを診察の時に聞かれました。担当医師は問診票を見てないのですか。それなら問診票は不要だと思います。(1999/8/15) →問2の答え
  3. ドック入所前日の飲酒の問題ですが、常習的飲酒者の場合は、通常の飲酒をした状態で検査する方が、日常の実態を示すと思いますがいかがでしょうか? 極端な場合、飲酒を、入所前に10日ほど中止して、良い数値が出たとしても、それでは生活習慣改善のアドバイスをする根拠にはなりませんね。日常の生活習慣が良いか、改善の必要があるかを判断するのがドックの目的の筈です。(2001/3/20) →問3の答え
  4. 1次予防と言う考えは、本当にそう思います。しかし、そのためには、かけ声だけでなく検査結果を踏まえて、指導出来る人材が望まれます。つまり、治療を越えた健康指向です。私は、毎年脳ドックも受けていますが、「毎年は必要無い」とドックの医師に言われます。病気だけでなく、老化の程度も心配で見ているのに、石灰化は当たり前とのごとく、いっさい説明はありません。残念ですね。又、老眼も心配で対処法を聞きますが、「年令だから」と言われます。(2002/1/6) →問4の答え
  5. 例えば「人間ドック」と言う表現が出来る“検査”を“なんとか協会”等で定義付けて、是非、各機関で検査内容等を一律にして、機関を変えても今までの受診記録を最大限有効に使えるようにしてほしい。そして収益志向の検査機関とそうでないものが利用者側からわかり易く区別できるようにしてほしい。 (2003/2/12) →問5の答え

Q&A

1番目の質問

問い

人間ドックでなくても、会社の健康診断でも大体のことは分かるようになっています。本当にこんなにいっぱいの検査が必要なのでしょうか。とくに、血液検査のMCV、MCH、MCHCは不要だと思います。

答え

一般の健康診断(労働安全衛生法などによる)の検査項目も充実してきたので、かなりのことがカバーされるようになってきました。その一方で、従来、人間ドックで余り有効ではない検査がなかったわけではありません。こんなにいっぱい検査をやって果たして全部有効なのか、という疑問を持たれるのも分かります。喀痰細胞診や一部の腫瘍マーカーなど、見逃しや間違った異常が出やすい検査は廃止した方が良いでしょう。

しかし、ご質問のMCV、MCH、MCHCは独立した検査ではありません。

  1. MCV:赤血球数とヘマトクリットから計算される。赤血球1個の体積(サイズ)を表現。
  2. MCH:血色素量と赤血球数より計算される。赤血球1個に含まれる血色素量を表現。
  3. MCHC:血色素量とヘマトクリットから計算される。赤血球に含まれる血色素量の中身の濃さを表現。

ですから、余分な検査をしたわけではないのです。貧血になった際には、貧血のタイプでこれらの数値が変わりますので、貧血の原因の推定が出来ます。従って、次の検査や治療を効率良く行うには欠かせない数値です。

例えば、鉄分が足りないと、赤血球はサイズが小さく、中身も薄く、数だけそこそこにあるというタイプの貧血を起こしやすいのですが、これはMCV、MCH、MCHCのすべてが低下するという形で現れます。また、ビタミンB12や葉酸の不足で起きた貧血では、赤血球のサイズは大きくなり、MCV、MCHは高いがMCHCはそこそこという形になります。

なお、酒飲みの人はしばしばMCVが高いのですが、葉酸が欠乏するのかもしれません。

この数値を計算する意義をご理解頂き、余分な検査をしたわけではないことをご理解ください。

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2番目の質問

問い

問診票をたっぷり書かされました。マークシートで書きにくい上、書いて申告したことと同じことを診察の時に聞かれました。担当医師は問診票を見てないのですか。それなら問診票は不要だと思います。

答え

問診票には限界があり、必要な情報をすべて質問することは不可能です。特に、時間的なことを聞きにくいという恨みがあります。ですから、問診票に書いてあることでも、さらに質問されることはあるでしょう。一番多いのは、「それはいつのことですか?」と言う質問だと思います。

また、医師によっては、人が書いてきたこと、人が聞いたこと(看護婦などによる予診)の情報を鵜呑みにすまいと、わざと白紙の状態で患者に接するのをスタイルにする人も居ます。「過去の問診は常に誤りを含んでいるものと疑ってかかれ、毎回自分で聞いて確かめろ」という教育がなされているのも確かです。質問者の場合もそうした医師に当たったのではないでしょうか。ちょっと極端な構えの医師は確かに存在します。

あるいは、内容を限定しない質問、例えば、「何か気になる異常はありませんか?」という質問は誘導尋問に陥らないために必須ですから、決り文句のようになっていますが、これに腹を立てたのでしょうか?確かに、「どうなさいましたか?」と聞かれて、第一声が「問診票に書いてきただろ、読んできたのか!」と怒鳴る受診者も居ます。しかし、書いてあることがすべてではないのですが……。

いずれにせよ、問診票に全部頼るのも、はなから問診票を全部無視するのも間違いだと思います。問診票の現実的な用途としては、システムレビューだと思います。すなわち、見落としや聞き落としを防ぐために、あらかじめ系統的な質問項目を用意し、広く網を張っておくやり方です。しかし、これでは詳細は不明ですから、当然後で詳しく質問されたり、診察されたりします。問診票に書いてあるからこそ詳細を聞かれる、そう言うことだってあると思います。

私としては、問診票が不要だとは考えておりません。ただ、書きやすく情報量も多く得られる問診票というのは言うは易く、なかなか作りにくいものです。改善策があったら教えて欲しい、というのが実情です。

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3番目の質問

問い

ドック入所前日の飲酒の問題ですが、常習的飲酒者の場合は、通常の飲酒をした状態で検査する方が、日常の実態を示すと思いますがいかがでしょうか? 極端な場合、飲酒を、入所前に10日ほど中止して、良い数値が出たとしても、それでは生活習慣改善のアドバイスをする根拠にはなりませんね。日常の生活習慣が良いか、改善の必要があるかを判断するのがドックの目的の筈です。

答え

人間ドック受診者に対し、事前の飲酒を控えていただいておりますのは、次のような事情によります。

血糖、中性脂肪の場合、診断基準が空腹時を前提としています。本当に悪い状態であれば、空腹時でもそれなりの変化は出ますし、前日飲酒していると本来問題無い人でも相当おかしな数値が出ます。それでは、食後の数値で(飲酒後の数値で)診断基準を作るべきだ、とのご意見もあろうかと思いますが、糖負荷試験のように一定の量の負荷をかけるのならともかく、普通に食べたり飲んだりしてきてはなかなか検査としての安定性に欠けることになります。このため、12時間は何もエネルギーを補給しない状態を基準にして判断することにしています。もし本当に病的な状態であれば、それでも何等かの変化が出てきます。

アルコール性肝障害の場合、主にγGTPの数値が問題になりますが、こちらの半減期は7日間ですから、前項のために1日お酒を抜いたくらいでは普段の状態を判断しそこなうことは無いはずです。ご指摘のとおり、10日間もお酒を抜いてくれば当然数値は下がり、ベースラインから上昇した分の60%くらいは下がっているでしょう。これが普段の状態を反映しない、という反論はもっともですが、本当にお酒にはまった人が10日間も禁酒するのは至難の業ですから、10日間お酒を休んで調整してきた、という人が居れば、その努力は素直に認めてよいと思います。それができるというだけでもアルコール依存症ではないわけですし、生活習慣は最悪ではないわけですから。もしどうしても普段の状態を知りたいからいつも通りにしてきた、という考えはそれ自体は間違いとはいえませんが、1日くらいお酒を休んでも、普段の肝臓の状態は検査に反映しますので、血糖や中性脂肪の検査のことを考えると、せめて12時間は休酒して欲しいと思います。

しつこいようですが、飲酒している最中に中性脂肪がたとえ500あっても、翌朝に140になるのなら必ずしも病気ではありませんが、飲酒しなくてもなお300あれば絶対に問題です。血糖でも、飲酒中の170という数値は問題といえないことも多いのですが、空腹時に130ならそれは問題です。診断のためには、条件設定がきちんとできる空腹時の数値が基準となりますので、やはり検査前12時間はきちんと条件を整えて受診して欲しいと思います。

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4番目の質問

問い

1次予防と言う考えは、本当にそう思います。しかし、そのためには、かけ声だけでなく検査結果を踏まえて、指導出来る人材が望まれます。つまり、治療を越えた健康指向です。私は、毎年脳ドックも受けていますが、「毎年は必要無い」とドックの医師に言われます。病気だけでなく、老化の程度も心配で見ているのに、石灰化は当たり前とのごとく、いっさい説明はありません。残念ですね。又、老眼も心配で対処法を聞きますが、「年令だから」と言われます。

答え

一次予防の目的は、病気になる前に手を打つ、ということですが、ここで考えなくてはならないのは、

  1. 病気の原因は予防可能なものと不可能なものがあります。
  2. 異常には予防すべき状態と、放置しても差し支えないものがあります。

つまり、ドックの結果が普通ではなく、異常とみなされても、対処する必要がないものがあります。そういったものにまで神経質になるのは、誤った、強迫的な健康志向です。

逆に、たとえ現在検査に異常はなくとも、将来を見越すと、重大な病気が予想され、しかもそれらは予防可能だ、というものもあります。一次予防重視と言うときに意識されるのは、こちらの意味で問題になる状態に対してです。

具体的な例で言いますと、どこにも異常がなくとも、喫煙を続ければ、それだけで15年以内に癌や心筋梗塞、脳梗塞で悩む可能性は、そうでない人の数倍には至ります。肺癌の健康診断をせっせとやって、早期治療に血道を上げるよりも、タバコ撲滅に力を入れるほうが適切かと思います。

しかし、老眼は予防できませんし、根本的な治療もありませんし、眼科的には病気でさえありません。こういった生理的な老化はある意味無視するのがドックとしては正当と思います。医学的には、生理的である限り、老化そのものは悪とは考えません。同じ老化でも、動脈硬化は病的な老化ですから、治療ではなく、なる前に予防すべき対象と思います。(90歳でもほとんど動脈硬化がない人もいますから。)

ご期待には添えないと思いますが、何でもかんでも若くあろうとするのでなく、病的な老化と重大な病気に結びつくものに対象を絞って考えるべきと思います。少しきつい言い方になったかと思いますが、現時点での考えを述べさせていただきました。

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5番目の質問

問い

例えば「人間ドック」と言う表現が出来る“検査”を“なんとか協会”等で定義付けて、是非、各機関で検査内容等を一律にして、機関を変えても今までの受診記録を最大限有効に使えるようにしてほしい。そして収益志向の検査機関とそうでないものが利用者側からわかり易く区別できるようにしてほしい。

答え

総合健診学会と日本病院会の基準はあるのですが、検査方法が同じでも項目によってはかなりの施設間差が出てしまう検査もあり、臨床検査の限界を示しております。本当の意味での共通化までは少し距離がありそうです。

検査内容から損益分岐点を算出し、妥当な価格がいくらなのか、そんなことでさえ今までは検討されていませんでした。また、利用者から見えにくいところにコストがかかることもあり、(特にフォローアップをきちんとやると収益を圧迫します)価格が高いのが単純に悪ともいえません。第三者機関が入って、評価基準を作って水準以上の施設を認定するようなことも行われていますが、外形基準の域を出ない感じがします。

そうは言っても、明らかに儲け主義のところは一度受診すれば分かるのですが。数値よりも感覚の方が確かなことも多いです。答えになってないかもしれませんが……。

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