人間ドックについて

煽り文句に注意

意外と役に立たないこともある遺伝子検査

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どこかの検査屋さんのウェブサイトに、こんな煽り文句があったとします。曰く、「○○という遺伝子を持っていると、不治の病で治療法の無い△△病に罹患する確率が40%です。総人口に対する△△病の発病率は3%です。○○遺伝子は△△病の発症を予測するのに重要なので、○○ 遺伝子を持っているかどうかの検査をお勧めします。」

これだけ読むと、△△病に対する恐怖から、 ○○遺伝子を検査しなければいけないような気にさせられてしまいますね。何しろ、その遺伝子を持っていない人に比べて、13倍以上も△△病にかかりやすいわけですから。△△病にかかると、痴呆になってしまい、最後は廃人となってしまうとすればなおさらです。そして、人間ドックのウェブページを開き、その検査屋さん以外では○○遺伝子の検査をやっていないことに気が付き、「こんなに進歩した検査をおたくの健診センターでは何故やっていないんですか。」と苦情を申し立てたくなったかもしれません。そして、健康診断の項目に○○遺伝子検査を入れなければ、と思うかもしれません。

しかし、治療法の無い病気にかかる危険率を先に知ることに意味があるのか、という根源的な問題があります。分かったところで避けられない運命に押しつぶされることをお望みですか?そして、その確率は40%に過ぎません。もしあなたが妊娠していて、2分の1の確率で遺伝し、さらに40%の確率で発症するであろう遺伝子のために、あなたはせっかくできた子供を中絶するのですか?発病する確率が100%ではない(これを浸透度が低い、と言います)遺伝性の病気や、治療法が無い遺伝性の病気の遺伝子診断には、このような問題点がついて回るので、その事実だけでも、この遺伝子診断は行うべきではない、と考えます。

そうした倫理的な問題はさておき、一見すごく有能そうに見えるこの検査(架空の検査ですが)も、実際には健康診断としては余り役に立ちません。このような遺伝病の遺伝子頻度は、ヘテロ接合の超優性(病的遺伝子を半分持っていたほうが生存に有利な現象)でもない限り、多くても10のマイナス5乗といったところです。もし100万人の人口に対し、この検査をスクリーニングとして採用すると、出てくる結果は次のようになるでしょう。

表1 架空のスクリーニング検査
- 患者になる人 大丈夫な人
遺伝子を持たない人(陰性) 29,960 969,940 999,900
遺伝子を持つ人(陽性) 40 60 100
30,000 970,000 1,000,000

このくらいの人口ですと、この遺伝子を持つ人は100人ですから、100人が異常として指摘されるわけです。しかし、患者はそのうち40人発生するに過ぎません。そして、30,000人発生するであろう患者のうち、29,960人は見逃されます。発生するであろう患者の0.1%くらいしか指摘できない検査には、健康診断としての価値を見出すことは不可能です。

架空の例を挙げましたが、病気との関連を言い募られている遺伝子でも、この程度にしか発症予測の役に立たないものはまだまだ沢山あります。設例のような場合、ある種の痴呆症のように、一般人口での発症率もかなり高い病気を想定したため、その欠点が目立つこととなりました。

いずれにしても、臨床検査、ことに遺伝子検査はやれば良いというものではありません。検査を勧めるための煽り文句に煽られないよう気をつけてください。