「超大型で弱い台風」や「ごく小さく猛烈な台風」はあったのか調べてみた

神奈川県と千葉県を中心に2019年9月9日時点で93万戸に停電をもたらした令和元年台風第15号。この台風は小さくとも中心付近の気圧傾度が大きく、非常に強い風が吹いた。最大瞬間風速が千葉で57.5m/s、成田で45.8m/sというのだから関東では尋常ではない。こういう小さくても強い台風としては平成19年台風第11号が記憶に残っている。

昔は台風の強さとしてTS(Tropical storm)強度の台風に「弱い」、STS(Severe tropical storm)強度の台風に「並みの」という修飾語をつけていたし、大きさについても「ごく小さい」「小型」「中型」という形容があった(定義の歴史的変化については「デジタル台風:台風の強さと大きさ – 気圧と風速の単位」に詳しく載っている)。

その中で、「超大型で猛烈な台風」、「ごく小さく弱い台風」というのは想像しやすいが、逆に「超大型で弱い台風」、「ごく小さく猛烈な台風」というのは存在したのだろうか。過去の記録を調べてみた。

まず「超大型で弱い台風」であるが、平成19年台風第14号2007年9月30日の日本時間午前9時(画像はリンク先)にこの状態だったようである。ちょうど台風に昇格したばかりの状態で、この台風はいきなり超大型で「発生」したということになる。中心気圧994ヘクトパスカル、最大風速35ノット(約18m/s)という強さと強風域の半径450海里(約850㎞)という大きさが妙にちぐはぐに感じる。大きすぎて雲がまとまらないのでは、という気がするが、それでもその後STS強度にはなってベトナム北部に相当な被害をもたらしたそうである。

次いで「ごく小さく猛烈な台風」であるが、残念ながら見つけることはできなかった。「小型で猛烈な台風」なら数例見つけることが出来た。例として平成26年台風第13号2014年8月8日日本時間午前3時(画像はリンク先)の状態を挙げておく。強風域の半径120海里(約220㎞)の大きさで中心気圧915ヘクトパスカル、最大風速110ノット(約55m/s)というのだから凄い。

ごく小さい台風では先に挙げた平成19年台風第11号が最強だったようで、「ごく小さく非常に強い台風」である。2007年9月14日日本時間午後9時(画像はリンク先)の時点で強風域の半径がわずか100海里(約190㎞)なのに中心気圧935ヘクトパスカル、最大風速100ノット(約50m/s)。あと5ノットで「猛烈な」勢力になるところだった。

こういう小さくても強い台風に直撃されたらいきなりガツンとやられるわけで、「小型で強い」というのは十分怖いのだが、残念ながら「ごく小さい」「小型」という表現は防災上油断をもたらすとして廃止されてしまっている。確かに、多数を占める「小型で弱い台風」というのは雨が弱いことは意味していないので、水害に対して油断させたくないというのは理解できるのだが、このような小さくて強い台風を表す良い言葉がない。報道では「コンパクト」という表現が使われたようだが、一般にはそれほどインパクトがなかったようである。単なる小型の台風として捉えられてしまったからではなかろうか。昔はこういう時に俗に「豆台風」といったようだが、現代では同様に単なる小さな台風として捉えられてしまうようで、なかなか難しいと思う。