メア発言を非難できない理由

元沖縄総領事のケビン・メア氏が「沖縄人は日本政府に対するごまかしとゆすりの名人だ。」と発言したとされる問題で、氏の発言の要旨を櫻井よし子氏が「メア発言の真意」で次のように要約している。

  1. 日米安保は非対称。米国が攻撃されても日本には米国を守る責務はないが、米国は日本人とその財産を守らなければならない。
  2. 集団的自衛権は憲法問題ではなく、政治問題だ。
  3. 沖縄の怒りや失望は米国よりも日本に向けられている。日本の民主党政権は沖縄を理解しておらず、沖縄とのパイプもない。
  4. 鳩山由紀夫前首相は左派の政治家だ。
  5. 日本政府は沖縄県知事に「もしお金が欲しいならサインしろ」と言う必要がある。彼らは合意と言うが、合意を追い求めるふりをし、できるだけ多くの金を得ようとする。沖縄人は日本政府に対するごまかしとゆすりの名人だ。
  6. 日本国憲法9条を変える必要はないし、変わるとも思えない。改憲で日本は米軍を必要としなくなり、米国にとってはよくない。

米国の立場からの発言であるから、1,2,6については特に議論にはならないであろうし、2,3についても分析に誤りはないと思う。問題になったのは5.の「沖縄人は日本政府に対するごまかしとゆすりの名人だ。」という部分である。

仮にも外交官の発言としては非常に不穏当この上ないもので、反射的に怒りたくなるところだが、この発言を聞いたときに私は怒るよりも妙に納得してしまい、絶望感の方が先に立ってしまった。この指摘が余りにも図星だったからである。

ゆすりと訳された部分は原語ではextortionで、ここでは強請りや恐喝というよりもむしろ高値で吹っかけるという意味合いである。ごね得を狙った交渉術を弄されたのでこのような表現になったのであろう。これは何も沖縄に限ったことではなく、近年の日本人の精神性の劣化を示すものではなかろうか。武士道は忘れ去られ、明治は遠くなったのである。

氏は沖縄人の気質に付いても辛辣な評価を下している。確かに住人の気質は私から見てもゆるいところが目に付くが、氏の表現は相当辛辣であり、琉球民族*1に対する差別との非難を受けかねないほどのものである。しかし、外交官にここまで言わせてしまう氏の沖縄での体験が異常なものであったことは想像に難くなく、吊るし上げにも何度もあったとのことである。

以上、ケビン・メア氏の指摘したextortion=高値で吹っかけるような交渉術は現実に日本でまかり通っており、その他の点も含めて氏の指摘が図星である点が少なくないこと、さらに氏の沖縄駐在中に日本人が仕掛けてしまった非礼が目に余るものであったことから、それらを棚に上げて氏の発言を追及する気にはどうしてもなれないのである。


*1 琉球民族:文脈から氏が本土と沖縄を分けて考えていることが伺えるため敢えてこのように記した。日本も大和民族、琉球民族、アイヌ民族等からなる多民族国家だとすれば、このような区別もあり得る考え方だと思う。