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Maple Leaf Diary -楓葉日記-

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2003-12-12 (Fri)

Updated: 2006-02-08 09:54 by Kaoru Norimoto

[ゲーム]「痕」リニューアル版

(この記事は、「かえで通り17番地」で掲載していたものをこちらに移行したものです。)

プレイ状況

プレイに至る経緯

初めてやった18禁ゲームです。このゲームの旧版は元々非常に評判が良く、ネット上でも高い評価をする人が多かったものです。特に、柏木千鶴と言うヒロインには信者が多く、2ちゃんねるの葉鍵板最萌トーナメントを制したのも彼女です。可愛いお姉さんという反則技で多くの人を萌えさせた彼女を拝むために手を出した、と言うのが実際のところです。しかし、2002年8月と時期が遅かったせいか、旧版は廃盤となってしまい、リニューアル版を先にプレイすることになってしまいました。

クリア順

全滅>千鶴Bad>千鶴True>梓Bad(3種類)>梓Happy>千鶴Happy>楓True>楓Happy>柳川>初音Bad>初音True>おまけ(4種類)

コメント

クリア順序には余り自由度は無いのですが、どのシナリオも見る価値のあるものなので、リプレイが全く苦になりません。事実、この作品は、今でも何度もリプレイしています。

シナリオ

本作では、物語世界全体が整合性を持ったいくつかの物語に分けられており、途中からそれぞれの物語へ分岐して行くシナリオの形を取っています。分岐先の各シナリオにはサスペンスあり、ホラーあり、SFあり、盛り沢山の要素があります。そして、分岐先のシナリオそれぞれにメインとなるヒロインを割り当てることで、物語世界全体を壊すことなくヒロインのキャラを立てることに成功しています。また、シナリオ分岐前の平和な状況と分岐後の状況のコントラストが劇的な効果を上げています。さらに、各シナリオはクリアする順序が指定されており、それぞれが良く練り込まれているため、無理なく全体像を把握することが出来ます。

全体の整合性と各シナリオ内でのドラマ性のバランスについても、前作の「雫」よりも優れたものとなっています。「雫」のように、一つの事件を視点を変えて見ているだけなのであれば、整合性は破綻しにくいですが、各ヒロインは完全にシナリオに従属し、ヒロイン描写のふくらみは限られたものになってしまい、ドラマとしては面白さに欠けます。そうかといって、「To Heart」のように、各ヒロインごとにまったく別の物語を出したのでは、整合性の破綻も起こりやすく、物語世界としてのまとまりが無くなってしまいます。個々のヒロインごとのドラマ性はあっても、シナリオの集合体としての作品としては散漫な作りになってしまいます。

シナリオ構成の点で隙らしい隙がない本作ですが、文体についてもよく考えられています。短い文を積み重ねて効果を挙げ、同語反復を効果的に使う手法は、ビジュアルノベルと言う形式によく合っています。題材も、目新しさのない定番ネタなのですが、それらを職人芸的に使っており、ステロタイプな4姉妹の設定さえも陳腐に感じさせないのは流石です。芸術というより職人気質を感じる文章です。

一方、18禁シーンについてですが、題材の関係で、和姦だけでなく、陵辱シーンが避けて通れません。また、狩猟者は殺戮と戦闘に性欲に匹敵する快感を得る、と言う設定のため、殺人が起きる状況も嗜虐的です。しかし、それらのシーンには全体構成の中での必然性があるため、取り除くことは不可能ですし、取り除いてしまえばそれはもはや「痕」ではなくなってしまいます。しかし、主人公が程よい真面目さと嫌みのない程度の正義感を持った親しみやすい存在であるため、さらに4姉妹と主人公の関係が居心地の良い空間であるため、それらの不快感が随分緩和されています。ストーリーは決して後味の悪いものにはなっていません。このゲームは、18禁ゲームであることに必然性があります。その点で筆者はこのゲームを高く評価します。

グラフィック

少し塗りが平面的なのと、キャラクターがなで肩過ぎるのが気になります。旧作に比べ取っ付きは良くなったのですが、少し飽きが来やすい絵のような気がします。背景も少し明るすぎるような気がします。

音楽

単体で聞いた場合はそれなりと言う感じですが、シナリオ上で使われた場合には雰囲気とマッチして、劇的な効果を上げます。劇伴音楽としてゲーム音楽を考えた場合、非常に優秀な音楽です。なお、CD−DAでないことはゲームプレイ中には気になりません。オーディオカード、ヘッドホンアンプ、ヘッドホンに良いものを使うことのほうが大切でしょう。ただ、リッピングが容易に出来なくなったので、音楽をmp3化してiPodに転送して持ち歩くことがなかなかできなくなったのがつらいところです。

キャラクター

いわゆるヒロインは4人しか居ないのに、見事に隙のない配置です。年齢が高めと低め、内向的か外向的か、ダークかライトか、背負うものが現世にあるか前世にあるか……。それらがうまく割り振られていて、シナリオだけで無く、キャラクター萌えと言う観点でも隙の無い配置になっています。

柏木千鶴

シナリオ上では、現世に伝わった鬼の力がもたらす悲劇を背負ったヒロインです。柏木家の男子が鬼を制御できない場合、それを殺すのは(すでに鬼を制御した男子が居ない場合)最年長の彼女の役目。そして、すでに彼女は2度も鬼を制御できない者の末路を見ています。愛する者、愛してくれる者はすべて自分を残して去って行ってしまう。そして、残されたのは妹たちを守らねばならぬ義務と、制御できない鬼を殺す義務。しかし、自分もまた愛情に餓えた、成長しきって居ない、非常に脆い存在である彼女は、心を空っぽにすることで耐えることだけに長じてしまった…。

そんな彼女に属性を付けるなら、ダーク(闇)=カオス(混沌)でしょう。あるバッドエンドでは、耕一を信じ切ることが出来ず、最悪の事態に至る前にと思いつめて殺してしまう。自分の感情を空っぽにして。一方、トゥルーエンドでは、耕一を信じきれず重傷を負わせたために、別の鬼がやって来て結局殺されてしまう。しかも、殺されることでようやく魂の救済を得る。どう考えても、ダークでカオスなキャラクターです。

しかし、そうなっても仕方ないだけの心の痕があり、その痕を救う道を探るのが千鶴シナリオなのでしょう。その意味で、耕一を殺してしまう方のバッドエンドは問題外です。後に残された楓が耕一の後を追って自殺するか、千鶴を殺そうとするか、あるいはその両方(千鶴に戦いを挑んでわざと返り討ちに合う)の行動に打って出る可能性が高いからです(楓と言うのはそういうキャラクターだと思っています。)。どちらが生き残った場合でも、生き残った方が二重の痕を心に刻むことになります。もし千鶴が生き残ったならば、それだけで千鶴は完全に壊れてしまうでしょう。

それでは、トゥルーエンドとハッピーエンドのどちらが千鶴の魂の救済になるのか、これも難しいところです。トゥルーエンドでは耕一に、ハッピーエンドでは楓に新しい痕を作ってしまう、この辺りも何とも言えないやるせなさを醸し出しています。千鶴シナリオとは、たとえハッピーエンドになろうとも、一抹の苦さを含むシナリオだと思います。

しかし、そうであってもハッピーエンドを支持します。トゥルーエンドは確かに美しいですし、ドラマとしてはこのシナリオは悲劇でなければならず、ハッピーエンドは安易であると言われても仕方ないでしょう。それでも、悲劇が無かった場合の千鶴さんは非常に魅力的な女性です。ボケボケ系の可愛いお姉さんは演技で被った仮面でしょうか。そうではないと思います。実年齢よりも精神年齢が幼いためにそうなってしまったのでしょう。それは、苛酷な環境で心を空しくして生きて来たことの証でしょう。その間、千鶴は本当の意味では成長していないのです。失われた時間。この言葉が似合う彼女を救うのは、主人公との愛の時間しかあり得ないように思います。

あと、彼女だけ作品中から受けるイメージと誕生日がずれています。作品中から受ける千鶴のイメージは、文句なしに冬なのです。それも、太陽が沈み切る冬至です。しかし、誕生日は5月中旬。他の3姉妹は梓=晩夏の8月末、楓=晩秋の11月中旬、初音=初春の2月下旬で、キャラクターのイメージと誕生日が見事に合っているのです。この辺りにも、苛酷な状況に彼女本来の姿がねじ曲げられていることが暗示されているような気がします。

本来の彼女には、平和な世界での史上最強の痴話喧嘩が良く似合いそうです。夫婦喧嘩に鬼を出すのもどうかと思いますが……。

  • キャラ萌え度A+、シナリオ感動度Aa+。
柏木梓

シナリオ上での彼女の役目は連続殺人陵辱事件の現世的謎解きです。しかし、シナリオの出来と言う点で冷遇されたのと、百合っ子かおりんがついて回るせいか、いま一つファンが少ない彼女ですが、二面性が良い味を出しているキャラクターです。がさつで主人公の弟のような面と、細かいことに気が付いて家庭的な面があり、しかも男っぽい行動と女性的な容姿。すべてに二面性があり、しかも彼女自身がそれをうまく使いこなしていない不器用な面が目立ちます。主人公と気の置けない関係と言うのは恋愛感情には結びつきにくい、というお約束な状態からスタートするのも、彼女の不人気に拍車をかけているのでしょうか。しかし、一緒に居て(プレイしていて)一番楽しいのは梓です。そして、一番現実の世界に近いのもまた彼女でしょう。

彼女に属性を付けるなら、ライト(光)=ロウ(法と秩序)でしょう。性格の明るさと過剰なまでの正義感。本編で後先考えず突っ込んで行って窮地を招くのも、梓らしいところです。耕一自身、太陽に梓と初音ちゃん、月に千鶴さんと楓ちゃんを配当して考えているので、梓がライト属性なのは間違い無いでしょう。

  • キャラ萌え度Ba-、シナリオ感動度Ba。
柏木楓

全ての発端となった前世での恋物語が彼女のシナリオです。前世の記憶に(リニューアル版では山神=ヨークが植え付けたものとされましたが)早くから覚醒してしまい、エディフェルの人格の強い影響下にあった彼女は、もはやエディフェルと二人で一人。そのためか、つるぺた系の幼い外見からは考えられないほどの妖しく大人っぽい雰囲気さえ身に纏っているように感じられます。そして、エディフェルも、楓も、一途なまでに恋人のことを思いつめる性格。本当は耕一への想いに気付いて欲しい。しかし、それで鬼を覚醒させて、その結果が鬼の暴走なら全ては崩壊する。この葛藤に悩むうち、いつしか楓は耕一を避けるようになってしまい、無口で無表情な子になってしまう。しかし、それにより、内なる想いはさらに強く……。

つるぺた、おかっぱ、オーソドックスなセーラー服、無口で無表情、一途に主人公を思いつめる、そういう属性持ちに取ってはつぼを突くキャラクターです。しかし、筆者にはそういう属性はありません。それなのに、仮想人格に過ぎない彼女に見事にやられてしまいました。創作された人格に入れこんでしまいました。人は、こういう状態を「キャラ萌え」と称しています。

どうして彼女に萌えるのか。その理由は、先ほども書きました通り、彼女の実年齢よりはるかに高い女性しか持ち得ない情念を彼女が漂わせているからでしょう。これがエディフェルの影響下にあるためなのは言うまでもありません。楓はエディフェルと二人で攻め込んでくるのです。そのため、彼女の内部には不思議な世界が広がり、彼女の回りには不思議な雰囲気が漂っています。

ネット上で楓ファンが他にどんなキャラクターを好んでいるか調べても、必ずしも低年齢キャラばかり出てくる訳ではありません。柏木千鶴、比良坂初音、篠塚弥生、川名みさき、来栖川芹香などの名前も見かけます。皆、不思議な雰囲気を持った年上のキャラクターです。お姉様属性、お姉さん属性の人にも支持される年下キャラクター、その点が妹の初音とまったく違う点でしょう(ちなみに、千鶴さんは逆に妹属性の人にも支持される年上キャラクターです。)。

そんな彼女の属性を判断するのは非常に困難です。ライトかダークかといわれると、やはりダーク寄りになるのでしょう。むしろルナティック(もの狂おしさ)と呼んだ方が良いかもしれません。しかし、千鶴さんのようなカオスはそこにはありません。自分の信ずるものがあり、一直線にそこに向かって行きます。動きの乏しい表情と裏腹に、彼女の心の中には、他の姉妹の誰よりも明確で、強いビジョンに裏打ちされたものが宿っています。必ずしも人の世の掟には縛られません。属性的にはダーク=ロウに近いかもしれません。彼女にはある種の強さがあり、戦乱の世でも生きて行ける強さがあります。戦国の世を生きたエディフェルにも通じる強さです。戦うべき時に戦いを躊躇う人ではないと思います。

しかし、千鶴さんに無い強さがあるとは言っても、彼女の抱えた心の枷は並み大抵の強度では無く、しかも自分ではどうにもならないものです。柏木家にかけられた鬼の血の呪いは、エディフェルが次郎衛門にエルクゥを与えたことに起因することを彼女は知っており、その結果に苦しんでいるのも自分なのです。しかも、千鶴さんのように心を空っぽにしてしまえるほど彼女の心は弱くありません。彼女の耐性の強さは、葛藤の水準を高くしてしまい、彼女の悲劇を拡大最生産してしまいかねません。そんな彼女に最も必要なこと、それは主人公の胸で思いきり泣くことなのでしょう。

ところで、柳川シナリオ後、および初音シナリオ後に予想される戦闘のことを考えると、素早さに極めて優れ、精神感応力が強く、空間知覚力が高く、単純な戦士タイプの耕一の欠点を補って耕一の戦闘力をアップさせられる楓が、耕一のベストパートナーのように思われます。LF97でもそういう設定でしたね。耕一のベストパートナーは平時の千鶴、乱世の楓、こう思えてなりません。

このように、シリアスかつダークサイドに見られてしまいかねない彼女ですが、有名な早食い、マニアックなまでのお笑いへの傾斜など、ギャグ方面への布石もちゃんと打ってあります。マイペースを崩さず、澄ましてお茶目なこともやってのけるので、油断なりません。また、マニアックな奇行が似合いかねない面もあります。しかし、それもまた魅力の一部です。

楓の紅葉は、一気に寒さが加わると赤く鮮やかな発色をします。厳しい心の枷をはめられた中で、主人公への想いを燃やすヒロインにふさわしい赤です。楓と言う名前は彼女にとても良く似合っています。

  • キャラ萌え度Aaa-、シナリオ感動度Aa-。
柏木初音

彼女の役どころは、最終的な謎解きであり、本編の最後を締めくくるものです。個性の強い(と言うより曲者揃いの)姉たちの中にあって、一番人格的に出来た妹で、耕一曰く、理想の妹を体現しています。確かに、甘えることが上手で、しかも調停者としていさかいを収めようとする彼女は、一番4姉妹の中では大人なのかもしれません。恋愛以外の点では。しかし、良心的過ぎて印象が弱いのも確かです。

お兄ちゃんと呼ばれたい属性の人にとっては、今でも絶大な人気を誇っています。しかし、アトラク=ナクアの比良坂初音と名前がかぶってしまったのが惜しまれます。正反対なキャラクターですから。

属性的には文句なしにライトでしょう。暖かいお日さまの匂いが良く似合うキャラクターです。しかし、梓のようにはロウでは無いと思います。さりとて、全然カオスではありませんし……。

シナリオ上では一番可哀想な扱いを受けています。バッドエンドは言うまでも無いですが、トゥルーエンドも、エルクゥとの戦乱の日々を予感させるものになっています。続編を意識してそうしたのでしょうか?

  • キャラ萌え度B+、シナリオ感動度Baa。

採点

  • シナリオ・ゲームデザイン:19/20
  • グラフィック:13/20
  • 音楽:18/20
  • キャラクター:19/20
  • 筆者の好み:20/20
  • 合計:89/100

総評

文句なしに素晴らしいゲームです。それまで、18禁ゲームと言えば、女の子を2Dの仮想空間で陵辱・調教するものか、ひたすら女の子をナンパしてエッチに持ち込むもので、邪悪な上に嫌悪かつ唾棄されるべきものであり、こんなものを愛してやまない人はダメ人間である、と言うイメージがありました。そんな偏見を打ち破ってくれたこの作品は、みごとに筆者の偏見を打ち砕き、18禁ゲームの世界への扉を開いてしまいました。18禁であろうとなかろうと、やはり良いものは良い、高く評価されるものには良さがあり、決して馬鹿にしてはいけない、そう考えさせられるものがありました。



平成16年4月11日開設
平成17年4月17日移設
乗本 knorimoto
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