反原発パニックを憂慮する

反原発運動なら昔からあったのですが、最近それが感性至上主義、反科学主義の域に達してしまい、リスクを比較考量したり定量化する考え方まで攻撃の対象にされているように感じます。今回の事態に対しても、放射線量とそのリスクを計算できる人は余り慌てていないように見受けられます。しかし、そうすること自体が怪しからんという風潮が出てきたのが気がかりです。

放射線(特にガンマ線)に限って言えば、計測器があれば測定できますし、安全基準もかなりの余裕がとってあるので、(油断は出来ませんが)感染症の流行よりはよほど対処しやすいと思います。しかし、世間はそうは思わないようで、パニックを起こしています。見えないというだけなら放射線も微生物も同じように見えないのに、放射線は怖がってウイルスには無頓着、というのも医師である私から見れば不思議な現象です。

原発がリスク管理の難しい厄介者であり、今の東電には管理しきれないであろうこと、とくに福島第一原発のような老朽化した原発は早急に停止すべきというのには異論はありませんが、反原発運動が行き過ぎて原発がすべて止まってしまった場合、原発では誰も死ななかったのに、猛暑、酷寒、電力不足、大不況、衛生状態の悪化、その他の慢性的ストレスによる体力低下を誘因としたウイルス感染症で何人も亡くなった、という本末転倒なことにならないか心配です。